「赤ちゃん登校日」授業

1.はじめに

人間関係が希薄になりつつある時代の中で、子どもから大人まで学校や家庭、地域、職場での人間関係やコミュニケーションがうまくいかなくて、生きづらさを抱えている人も少なくありません。とりわけ、親の都合で虐待する親も後を絶ちません。


これらの根っこは決して別々なものでなく、すべて「人との関係性」という根っこでつながっていて高度済成長以降より少子高齢化や核家族化などによって、家族のあり方や地域社会の結びつきも変わり、多くの子どもたちが家族の一員として責任ある手伝い体験や異世代の人間関係を体験することなく子どもたちが育ち、幼い頃からそばにいる人に関心をもち、心から人と真剣に向き合う大切な対人関係のトレーニングが、未熟なことが原因の一つです。 この問題解決には、家庭では家族の一員として責任をもって年齢に応じた手伝い体験や地域の大人との関わり体験を積極的に進めながら、学校現場でも意図的に人間関係力やコミュニケーション力について継続的に学ぶ学習が算数や国語などと同様に必要な時代といえます。


2.鳥取県で生まれた人間関係構築力を学ぶ「赤ちゃん登校日」授業って?

人がいのち輝かして生きるには、人と関わり人とつながる必要があります。人との関わり体験が希薄で未熟なら、その人に輝く明日はないかもしれません。それが、今日の子どもたちなら、家庭や学校、地域、職場の輝く明日はありません。


そこで、試行錯誤の中で考案したのが、まだ話すことがままならない赤ちゃんとその親に学校においでいただき、児童・生徒と継続して関わり体験(4回を原則を)をもち、赤ちゃんの成長やいのちの尊さを実感しながら人間関係を構築するコミュニケーション(お互いの考えや気持ちを理解し合うこと)を学び人の愛情に気づくなど、子どもたちとともに赤ちゃん親子、参観する保護者、地域の方、教職員など、この授業に関わる人たちにたくさんの気づきや学びのある学習プログラムです。

○行政、学校現場の教職員、保護者、地域の共通理解

※授業実践のために、事前に実施校の全職員、保護者、行政(教委・子育て・健康対策など)の関心と理解を深める研修などの場をもつことが必須。


3.「赤ちゃん登校日」授業で大切にしていることは?

①赤ちゃんや赤ちゃんのおとうさん・おかあさんとの関わり体験の前に、児童や生徒が、人間関係を構築するときに大切なマナーやコミュニケーション(お互いの考えや気持ちを理解しあうこと)について事前学習します。

②原則として、生徒と関わるパートナー(赤ちゃんや赤ちゃんのおとうさん・おかあさん)を決めて、継続して関わり体験を行います。

  • 1回目  基本的マナーやコミュニケーションを学ぶ事前学習 

・みんなの考えはいろいろ ・関心をもって、あいさつを交わし、みること、きくこと、伝えること

  • 2回目  赤ちゃん親子・児童生徒との関わり体験  

・事前学習の復習 ・プラスのストローク ・赤ちゃん親子と児童生徒との関わり体験

  • 3回目  赤ちゃん親子・児童生徒との関わり体験

・事前学習の復習 ・表情の大切さ ・伝え方(絵本) ・赤ちゃん親子と児童生徒との関わり体験

  • 4回目  赤ちゃん親子・児童生徒との関わり体験

・事前学習の復習 ・総合まとめ ・課題をもって赤ちゃん親子と児童生徒との関わり体験

※赤ちゃんや親との関わり体験にとどまらず、お互いが良い関係を構築するには、他 者に自らが心開いて、『他者に「関心をもち」=「あいさつを交わし」→「みる」ことの大切さ→「きく」ことの大切さ→伝えることの大切さ』などのコミュニケーションの基礎を学ぶことがこの取組の大きな柱になっています。

シンポジウム

共に育つ「赤ちゃんパワーを活かした人・まちづくり」(平成23年度松江にて)

人間関係構築力を学ぶ「赤ちゃん登校日」授業 「模擬授業」 

主催/しまね子育ち子育て支援ネットワークつながるネ!ット

   ・島根県・島根県教育委員会

4.なぜ、「赤ちゃん」なの?

  1. 人生のスタートラインに立つことにつながる。
    赤ちゃんとの関わり体験の中から、自分の成長をふりかえり、自分がどれだけ親に愛され、人にお世話になってきたのか実感することができます。親に愛され支えられてきたことを知ることで自然と自分を大切にする気持ちをふくらます一助になります。
  2. 赤ちゃんとの言葉のやりとりができない。
    赤ちゃんと関わり合っても言葉のやりとりができません。赤ちゃんとの関わりをふくらますには、子どもたち自らが心開いて赤ちゃんと向き合い、赤ちゃんの想いを赤ちゃんの全身から読みとることが何よりも大切です。それは、心から人と真剣に向き合う人間関係の基本でもあります。それに気づかせてくれるのが赤ちゃんです。
  3. 自分の考えや気持ちを安心して伝えることができる。
    赤ちゃんと関わり体験をもっても、安心して向き合い、自分の考えや気持ちを言葉にして伝えることができます。それは、赤ちゃんから否定的、批判的なメッセージが子どもたちに届けられることがないからです。つまり、赤ちゃんの力を借りて、人間関係、コミュニケーションについて学ぶことができます。
  4. 次世代育成、少子化、虐待問題への解決の一助。
    子どもたちが赤ちゃんとの関わり体験をもちながら、親から育児についての体験や赤ちゃんとの関わり方を学ぶことは、親になるための何よりの学びでもあります。赤ちゃんの親にとっても子育ての自信につながることから、この取組みはこの時代にあっては何よりの虐待などを未然に防ぐ子育て支援対策でもあります。

5.「赤ちゃん登校日」授業のねらいは?

  • 児童・生徒:基本的マナーをはじめ、コミュニケーション力、共感力、ホスピタリティ・マインド(思いやりの心)、クラスの仲間との信頼関係、さらに、自分の成長をふりかえることで、いのちの尊さや親への感謝、役立ち感などを育む一助とします。
  • 赤ちゃんの親:コミュニケーション力をはじめ、児童・生徒と赤ちゃんとの関わりから、我が子をあらためてかわいい・愛しいと実感したり、児童・生徒を通して赤ちゃんの将来をイメージしたり子育てへの励みや役立ち感を実感する一助とします。赤ちゃんは、心の礎である安心感や信頼感を形成します。

6.「赤ちゃん登校日」授業から期待できることは?

 児童・生徒にとって 

  1. 小・中・高校生は、赤ちゃん親子と関わりあうことで、人と人とが理解しあうコミュニケーションの基礎に気づき、学んだり、他者への共感を育み、いのちの大切さを心と肌で実感することができる。
  2. ホスピタリティ・マインド(思いやりの心)への気づきをふくらますことができる。
  3. 自らの成長をふりかえり、一度しかない人生を、一つしかないいのちをどう活かすかについて考える機会となる。
  4. 自分を好きになったり、親への感謝の気持ちもふくらむ。
  5. クラスの仲間一人ひとりが、赤ちゃんや赤ちゃんのおとうさん・おかあさんと真剣に向き合うことで、クラスの仲間の再認識につながり、信頼関係を強め、学習環境をよりよくする後押しとなる。
  6. 子育ての喜びや親の不安や苦労などを学ぶことで、子育てをより身近に感じることができる。
  7. 赤ちゃんをかわいい、愛しいと思い、将来、自分も子育てしたいという意欲を喚起する。
  8. 赤ちゃんの親との関わりから自尊感情を高めることができる。

 おとうさん・おかあさん、赤ちゃんにとって 

  1. 家族のコミュニケーションについて再考することができる。
  2. 赤ちゃんへ肯定的メッセージを届けてもらうことで、役立ち感を実感することができる。
  3. 赤ちゃんとの日々の暮らしや想いを子どもたちに伝えることで、客観視することができて、親としての気持ちの整理につながる。
  4. 赤ちゃんと心から真剣に向き合う子どもたちの姿を通して、我が子の成長した姿をイメージすることができます。また、他人から愛される様子を目の当たりにすることで、あらためて、我が子への愛情を実感し、毎日の育児への励みにつながります。
  5. 赤ちゃんは、児童・生徒から肯定的な関わりを受けることで、安心や信頼を実感できます。

7.「赤ちゃん登校日」授業に関わった教職員からの声(平成23年度実践校)

赤ちゃんの持つ力は大きい。改めてそう感じた。
特別な場所で行う、特別な人たちに来てもらう学習はそんなに体験できることではない。ふだんの仲間とだけで同じめあてで行ったとしたら、この子たちは周りを気にして安心できずになんとなく楽しかったという学習で終わってしまったことだろう。
でも、赤ちゃんやその後ろにいるお母さんたちには、安心して笑顔を向けたり話したりきいたりできた。赤ちゃんはすごい。赤ちゃんのお母さんたちもすごい。そこからいろんなことに気がついた僕たちもすごい。そんな僕たちを愛し支えてくれた僕の家族もすごい。赤ちゃんからつながる安心と肯定感、有用感。


とても素敵な活動だったけれど、きっと日常の忙しい生活の中ではこの感動もちょっとずつ薄れていくかもしれない。だから,教室には子どもたちの素敵な笑顔を写した写真と、学んだことを掲示し、いつでも見ることができるようにしている。
そして、事あるごとにくり返しくり返し事前学習や交流学習で学んだことを思い出させていく。特別な学習で終わらせない。子どもたちと赤ちゃん親子の手紙での交流は夏休みに入った今も続いている。このつながりからも、子どもたちは安心や大好きだよのメッセージを受け取っていることだろう。
そして何より一番一緒にいることの多い担任である私自身がもっと笑顔で安心を届け、クラスそのものが心のコップとなるように優しさで満たしていきたい。まだまだケンカや言い合いもあるけれど、「赤ちゃん登校日」授業で学んだ「居心地のよさ」は忘れないはずである。 

8.「赤ちゃん登校日」授業を体験した子どもたちや赤ちゃんの親の声

(小学生)赤ちゃんをみていたら心があったかくなってきました。

赤ちゃんをみている間ずっと笑顔になってしまう「不思議な力」があるなと思いました。
赤ちゃんとふれあって、抱っこしたら寝てしまったので、赤ちゃんを抱っこしてゆーらゆーら揺らしたら気持ちがいいのだと思いました。
マットの上におろしたとき、そっと赤ちゃんをさわってみたら、とてもポニュポニュしていました。
赤ちゃんの親からいろいろ話をきいていると、みんな大きな喜びの中に生まれてきたんだなと思いました。私のお母さんやお父さんも、私が生まれたときとっても喜んでいたんだなあと・・・。


(小学生)赤ちゃんはとってもかわいくて天使のようだった。

ほっぺは、ぷよぷよできもちよかった。 遊んでいるときの赤ちゃんの笑顔がイヤなことを全部忘れるようなすてきな笑顔だった
抱っこしたとき重たくて、これが「いのち」の重さなんだと感じました。


(中学生)赤ちゃんの力にとても癒された良い時間が過ごせました。

赤ちゃんの力だけでなく、自分の知らない自分にも出会うことができ、自分の変化にも気づくことができました。頭で考えるだけではわからないことを体験できて本当に良かったです。 赤ちゃんを愛しいと感じる心が自分の中にあることに驚きましたが、
そう思えることをうれしく思います!


(赤ちゃんのお母さん・お父さん)自分を大切にできる気持ち・・・

自分って何?なんで生きているのだろう?と考えてしまう多感な時期に、赤ちゃんとその親と接することで「自分もこのように大切に育てられたのかな」と少しでも思って頂けたらうれしいと思います。
そう思って頂ける機会があれば、自分を大切にできる気持ちや「生きていてうれしい」と自分に自信を もってもらえるのではと思います。


(赤ちゃんのお母さん・お父さん)母親として自信をもつ・・・

赤ちゃんを介して子どもたちと関わることで、いつも普通にしていることが、子どもたちからみたら、
「とてもすごいこと」ということがわかり、私自身が母親としてあらためて自信をもつことができたように思います。

9.ACジャパン(旧公共広告機構)のこのCMを、ご存知ですか?

『先生は、腕のなか。』
http://www.ad-c.or.jp/campaign/self_area/04/index.html

これは、「プレミアム・パスポート」事業や「ふるさといしかわ子育て応援ファンド」などの先駆的事業に取り組む「いしかわ子育て支援財団」が、鳥取発の人間関係力を学ぶ「赤ちゃん登校日」という取組みに注目して、平成20年度金沢市立野町小学校にて、石川県で初めて「赤ちゃん登校日」授業が行われました(授業のアドバイザーとして金沢市立野町小学校、加賀市立南郷小学校に関わりました)。

そして、平成21年度 金沢市立野町小学校での「赤ちゃん登校日」授業の様子がACジャパン(旧公共広告機構)によって、名古屋地区(東海3県+北陸3県)の地域キャンペーンとして制作され、更にNHKとの共同キャンペーンとして、全国に流れています。ここまで、一歩一歩「赤ちゃん登校日」授業に取り組んできましたが、こうしてCMが1年間流れることは全国のたくさんの方たちにこの取り組みについて知って頂くよい機会となりました。

10.平成27年度の取組みについて

平成27年度は、島根県・石川県・鳥取県内の小・中学校でアドバイザーとして関わっていきます。

 

 

 

 

平成26年度鳥取大学地域貢献支援事業

いのち輝け子どもたち 人間関係構築力を学ぶ

「赤ちゃん登校日」授業リーフレットより

※ぜひ、ご都合をつけて上記の取組をご覧いただけましたら幸いです。
詳しいことは、鳥取大学医学部総合医学教育センター(高塚)までご連絡ください。
e-mail:ikyou-center@grape.med.tottori-u.ac.jp
電話:0859-38-6439 FAX:0859-38-6458

11.日本が変わる!

人間関係構築力を学ぶ「赤ちゃん登校日」授業をはじめ、継続的な人間関係・コミュニケーションの学習を体験した子どもたちが、自分やそばにいる人を大切に思う気持ちを育み、やがて親や大人なったとき、次世代の子育てを変え、虐待もネグレクトも激減し必ず次世代の子育てが確実に変わります。健全な次世代育成につながります。

また、そんな心を育んだ子どもたちは、親や大人になっても地域や職場でも人とのつながりを大切にして活気づきます。

つまり、日本中の子どもたちがこのような取組みを体験することで、子どもたちが親や大人になっても、必ずや自分やそばにいる人のいのちを最優先する生き方や関わり方をして、今の日本が今以上にホスピタリティ・マインド(思いやりの心)あふれる心のあたたかい国に生まれ変わるのです。

12.課題は?

今後、継続的にこの取組を実践していくには、さらに行政をはじめ、学校現場の教職員、保護者、地域住民に対して小学校では6年間(中学・高校では、それぞれ3年間)の継続的な人間関係構築力を学ぶ学習プログラムへの理解と関心を深めていく場が何より大切です。 たとえば、保育や学校で勤務する大人の人たちに対してのコミュニケーションについて再考して頂く学習の場や育児中のパパママに対してのコミュニケーション講座など学習の場を設けて理解と関心を深めて頂くのも一つだと考えます。

また、この取組みの柱である赤ちゃんの参加に対して、少子化の中で親への理解と関心を今以上にふくらますために「赤ちゃん募集」も課題の一つです。


参考文献

  1. 赤ちゃん力「エイデル研究所」高塚人志著より